2012年5月19日土曜日

『草原』23-03(通巻99)号より


 夜の黒い氷に滑った  啓司
 これはたまにありました。夜にまぎれた氷は、危険なことこのうえありません。夜がしかけた罠のようにすら思えてきます。

 黒い実ついばんで黒い糞    滋人
 鳥の食事と排泄の様子ですね。鳥のことはよくわかりませんが、食べたものがそのまま出てくるのでしょうか。おもしろいものです。

 屋根に出た月と見合う  瞭
 急な出会いに、お互いに驚いてしまったようです。あまりにきれいな相手ですと、一瞬息が止まってしまいます。

 冷えた尻陽射しに移す  ゆ
 冬の陽射しは、とにかく優しいものです。子供のころはよく、陽射しのあたる縁側に寝っ転がって昼寝をしていたものでした。

 家が建つてしまへば静かな冬日になつてゐる  武二
 しばらく続いていた建築音も、ついにはやんでしまったのですね。いつも通りの静かな日常が戻って来たようです。ところで彼の他の句に、ビルディングやフロントガラスといった輸入語がみられました。これらの単語が、昭和初期には既に日本で用いられていたかと思うと、不思議な感じがしました。

 手袋ぬいだ握手がふたむかし  権三郎
 久方ぶりの再会だったということでしょうか。しかし、手から伝わって来る温かみは、ふたむかし前と変わっていないような気がします。

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